2011年に行われた中学校教科書採択…下野市教育委員会の報告  (『全教栃木 教育新聞』第138号 2011年7月25日

「改正」教育基本法の趣旨に十分沿ったもの?

 2011年6月7日に県議会に対して「中学校社会科教科用図書[歴史的分野]の適正な採択に関する請願」が提出されました。提出者は小山市の男性で、紹介議員は梶克之民です。 請願の趣旨は「採択に当たっては、教育基本法の示す教育の目的及び教育の目標に最も適した教科用図書を選定していただきたい」というものです。理由としては以下のようなことを指摘しています。

 教育基本法の主な改正点は、「豊かな上層と道徳心」、「公共の精神」、「自律の精神」、 「生命や自然を尊重する態度」、「伝統や文化を尊重し、それを育んできた我が国と郷土を愛する態度」など旧教育基本法にはなかった現代国家の国民として当然備えるべき資質を明示したことです。
 当然とはいえ現在わが県において使用されている教科用図書「歴史的分野」の多くは、 そのままでは教育基本法の改正の趣に十分沿ったものとはいいがたいものです。
 現在わが県において使用されている教科用図書[歴史的分野]の多くが取り上げている歴史事象には、わが国の歴史における負の側面を強調するような記述が散見され、その表現方法においても必ずしも公正で均衡のとれたものとはなっておりません。

 以上のような請願の理由をみなさんはどのように受け取られますか。この理由から「改正」教育基本法の趣旨を考えると、現行の多くの歴史教科書の記述とは異なるものということになります。つまり、国民主権、基本的人権、平和主義を定めた日本国憲法の精神の否定です。
 日本国憲法前文にはご存じのように、次のような文章があります。 

 われらは、いずれの国家も自国のことのみに専念して、他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 先に紹介した請願の理由はこの日本国憲法を尊重したものといえるでしょうか。改めて「改正」教育基本法の趣旨と合っているものを、と声高に叫べば叫ぶほど、日本国憲法とは相反する法律であることを暴き立てることに他ならないといえるのではないでしょうか。 

元県教育長も…

 7日21日、下野市教育委員会で来年度から使用する中学校・特別支援学級教科書の採択が決定しました。さる15日の市教科用図書選定委員会の結果を受けたものです。社会科歴史的分野で「つくる会」系育鵬社版が選定されたのですが、現場の教員などからなる調査委員会からは東京書籍・教育出版・育鵬社が推薦されていました。
 教育委員会の詳細はお知らせする機会があるかもしれませんが、最終決定では育鵬社は否定され、東京書籍になりました。
 とにかく目立ったのは育鵬社採択を主張した古口紀夫教育長の「熱意」です。古口氏は石橋高・栃高・栃女の社会科教師、黒磯の女教師刺殺事件当時の県教育長でした。
 彼は執拗に「教育基本法改定の趣旨にあった教科書」を主張していました。教育委員長の「基本法にあっているから、どの教科書も検定を通っている」との「冷静な」意見が目立つほどでした。また、彼は育鵬社は女性史・問題にも特別に配慮しているとして「平塚雷鳥・与謝野晶子」の記述を取り上げました。これに対して女性の教育委員が具体的にその部分の記述を読み上げて痛烈に反論しました。
 こんな人が高校教師のトップ(しかも社会科)だったか思うと、とても情けなくなりました。もう一人の元高校長の教育委員が、敗戦直後中学(旧制)歴史教師が嘘を教えていたと生徒に告白したこと、自身が足尾高校に赴任していたことの感慨などを率直に語ったことは救いでした。
 傍聴者は約40名。元国分寺町長の若林氏もいました。「節を通す」ことの大切さを彼の姿から感じました。
 大田原で前回も今回も「つくる会」教科書を批判した女性委員、下野市での歯切れよい意見を展開した女性委員、女性の存在・社会的位置が教科書問題のポイントかとも思いました。

※この請願は継続審議とされましたが、本会議で同趣旨の決議がなされました。県議会は05年にも同様の決議がなされています。



中高一貫校の教科書採択についての要求書

宇都宮東高校附属中学校(中高一貫校)の教科書採択は、9名の選定委員会で「2種程度」を選定、その中から県教育委員会が採択することになりました。「選定委員会」は3日の午前9時から宇都宮市内のアーバンしもつけで開催。傍聴者数は20名まです。
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 県教委事務局は、学校教育課を窓口として選定委員会、委員宛に提出された要請書は、委員会、委員本人に送付しないこととしました。そのため、一昨日「那須・教科書と教育を考える会」が提出した要請書は受け取りを拒否されました。
 私たちや市民団体は昨日、県教委事務局に対し、こうした措置は父母、県民、教職員の意見を軽視し、民主主義に反すること、今後このやリ方を市町が踏襲しかねないことを述べ、撤回を求めました。
 また、この事務局のやり方の是正を求める要請書を県教育委員(教育長を除く)5名に送りました。(8/2)
 この件についての要請先は教育委員会事務局学校教育課中高一貫校設立準備担当 
 TEL 028-623-3357
FAX 028-623-3399



                                                   2005年6月 日
議会議長 様

                                  全栃木教職員組合委員長 

                                   栃木県私立学校教職員組合連合委員長

        「中学校用歴史教科書等に関する請願」の扱いについての要請書

 地方自治発展に対するご尽力に敬意を表します。
「教科書を良くする栃木県民の会」から県議会に提出された「中学校用歴史教科書等に関する請願」について、その扱いを慎重に願いたく要請いたします。
 請願は、文面及び添付資料から特定の教科書を採択するよう強く求めており、議会が教科書採択について関与することは、教育の中立を侵し、教育行政を歪めることになります。
 したがって、議会が教育への介入と受け取られる判断をすることのないよう、要請いたします。
 なお、教育委員会に対し、別紙要請書を提出したことを申し添えます。
                                                     以  上




                                             2005年6月  日

市町村教育委員会 様

                           全 栃 木 教 職 員 組 合委員長 

                          栃木県私立学校教職員組合連合委員長  

中学校教科用図書採択に関する要請書

 民主教育発展に対するご尽力に敬意を表します。
 前回の中学校社会科教科書の採択を巡って、下都賀地区では採択協議会での決定が市町教育委員会の同意を得られず、再採択となったことはご承知のとおりです。こうした混乱を招いた原因について、私たちは現場の教職員の意向を尊重せず、採択委員らの意思で教科書採択を行ったこと、検定で合格しているとはいえ、扶桑社版教科書の内容に多くの国民が疑問を持ち、実際この教科書が憲法や教育基本法の目指す教育目標と相容れない記述が多く、またそのためにアジア諸国まで巻き込んだ国際問題を引き起こしてしまったから、と考えています。
 今回の検定でも、扶桑社版教科書は検定合格をしましたが、訂正箇所が多く、内容についてもアジア・太平洋戦争や植民地支配を肯定的に記述し、東アジア諸国から批判される内容になっています。また採択ルールの違反行為も起きており、この教科書のいわゆる「白表紙本」をいくつかの教育委員会に配布したことは文部科学省も確認しています。
昨年夏栃木市で開催された「教科書展示会」では、同じく文部科学省による検定を通った扶桑社版以外の社会科教科書を「自虐的」と決めつけ、さらに4年前の一連の採択の経過について「下都賀事件」と呼ぶなど、公正な教科書採択を害する行為と言わざるを得ないものでした。また、この展示会は現職の公立中学校教員(当時。今年3月で退職。)が主催するなど、公務員の信用を損なう行為も見受けられました。
 今年は日本の敗戦から60年の節目の年です。日本国憲法は前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」、教育基本法でも同じく「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示し」ています。教科書採択の過程でも、この目的が達成されるべき、と私たちは考えます。
教育委員に望まれていることは「レイマン・コントロール」の権能です。「実際に使用する学校の教職員の意見や希望を参考として、公正適切な考察のもとに関係学校の実情に即して採決に当たる」ことを、県の採択の基本方針でも明確にしています。
教科書採択を巡って、政治的な圧力が加えられることはあってはなりません。教育委員のみなさまが教育の条理に基づいた教科書採択事務を行ってくださいますよう、下記について要請します。

                               記

1.教科書採択の諸実務について、公正が確保され、諸法規等に違反する行為が行われないよう慎   重かつ適正に対応してください。
2.採択にあたっては、各学校の教職員の意見を尊重してください。
3.採択の会議を公開してください。
                                                      以  上




                                                2005年6月14日

栃木県議会議長 木 村 好 文 様

                                   全栃木教職員組合委員長 

                                  栃木県私立学校教職員組合連合委員長


  「中学校用歴史教科書等に関する請願」を採択しないことを求める要請書

  私たちは6月6日に「『中学校用歴史教科書等に関する請願』の扱いについての要請書」を提出しましたが、9日に開催された文教警察委員会での審議では採択という結果になりました。この結果について、私たちは教育の中立を侵し、教育行政を歪めるものとして受け入れることはできません。
 さらに重大なことは、県議会への請願と同時に、各市町村議会に提出された陳情(請願)には、「51130名の署名集計表(『署名』は栃木県議会へ提出したため。)と共に提出し」という文章があったのに、県議会請願にはこの文章などがないばかりか、51130名が請願提出者として名前を連ねていないことは、県議会や市長議会、そして署名者を愚弄するものと言わざるを得ません。なお、この署名は特定の教科書の採択を求めた「趣意書」に過ぎず、そのために請願として提出しなかったことは、請願者自身も議会にはなじまないものである、と認めたことに他なりません。
 どうか、この問題について議会として調査を行うとともに、重大な問題をもつこの請願を栃木県議会として採択しないことを強く求めます。
                                                 以  上



2005年8月11日

 

大田原市教育委員会

    委員長 小高 一紘

教育長 小沼  隆

 

                     栃木県労働組合総連合議長 

                                                       全栃木教職員組合委員長 

 

扶桑社版歴史・公民教科書採択の撤回等を求める要請書

 

 貴教育委員会は7月13日、来年度から中学校で使用する社会科教科書(歴史的、公民的分野)に、扶桑社版歴史・公民教科書を使用することを決定しました。決定に至る教育委員会の会議の進め方や発表の方法、その後の措置について、全栃木教職員組合として7月13日に抗議を行いましたが、今回改めて、栃木県労働組合総連合及び全栃木教職員組合として、以下の理由から採択の撤回等を求めるものです。
 この間栃木県内のすべて市町村で教科書採択が行われ、扶桑社歴史・公民教科書を採択したのは大田原市だけとなりました。前回の採択で混乱した下都賀地区でも、栃木市、小山市、下都賀郡の8町は扶桑社以外の教科書を採択しました。これらの地区も含めて、県内のどの地区でも調査員の推薦教科書に扶桑社歴史・公民教科書はありませんでした。
 これまでの大田原市の教科書採択についての新聞報道を読むと、小沼教育長ご自身が扶桑社歴史・公民教科書採択を「信念」としていたことや、「私の学んだ中学校教科書に似ていて懐かしい」などと発言した協議会委員など、公正・公平に、かつ日本国憲法や教育基本法に示された教育の目的を実現する立場から採択が行われたのか、疑問に思えてなりません。採択協議会や教育委員会の議論がすべて明らかになっていない今でも、私たちはこの採択に疑念を抱かざるを得ません。現場の調査員の推薦も、他地区の状況と比べてみたとき、どうして大田原市の教員だけが扶桑社版歴史・公民教科書を推薦したのか、本当に教育的な観点からのみ検討したのか、採択協議会や教育委員会の姿勢に影響されることはなかったのか、などこれらのことも疑問に思わざるを得ません。  また、10月に合併される黒羽町、湯津上村両教育委員会の採択と異なる教科書使用の問題も見過ごせませんし、大田原市立中学校に子どもを通わせる外国人からの懸念も表明されています。
 これらの問題を解決するためにも、採択撤回を含めて下記について強く要請します。

                  記 

1 戦争を賛美し、憲法改悪に子どもたちを導く扶桑社版歴史・公民教科書の採択を撤  回すること。

2 黒羽、湯津上両教育委員会との協議を尽くすこと。

3 日本国憲法や教育基本法、子どもの権利条約に基づいた教育を推進すること。

                                以  上



 大田原市教育委員会が扶桑社歴史・公民教科書を採択

 大田原市教育委員会は13日、扶桑社歴史・公民教科書を来年から使用することを決定しました。
 教育委員会は当初公開としていましたが、冒頭だけ公開、会議結果も市民に知らせず、マスコミだけとしました。その間、教育長以外の教育委員は裏口から外へ、そして教育長も会見が終わると裏口に用意させた公用車に乗り込み、自ら市民に対して、説明をすることはしませんでした。
 私たちは、採択の撤回を求める要請書を送付しました。
7月19日、3回目の栃木市教科書採択協議会が開催されました。この会議では、前回話し合われた教科書選定の基準について確認されましたが、さらに「一部の学校で取り組もうとしている小中一貫校も視野に入れて、小中の関連を図った教科書を選定すべき」という意見(教育委員)が出されました。その意見に対し、「数学や理科についてはその必要がある」という教育委員長の発言。他教科の関連が不要である論拠は示されませんでした。
 このやりとりの後、約1時間20分調査員自ら教科書「調査」を行いました。
 次回、最終の協議会は8月3日9時から、栃木市国府地区公民館で開催されます。結果の発表は午後6時以降になる見通し。
(05.7.21)
下都賀地区、小山市、栃木市の教科書採択(選定)協議会が3日開催されました。結果は、3つの協議会すべてで、扶桑社歴史・公民教科書を選定しませんでした。4日の各教育委員会で、この選定どおりの採択を行いました。